「Winding W」 豊かなバラック

区画整理された住宅地には一戸建てや小さなアパートに空地や畑が混ざる。筑波の広大な研究施設に程近い敷地に、作曲家のご主人とその奥様のための住宅を計画した。お二人の要望は曲作りをするワークスペースとそれに続く家族のための場所。寝室と将来の子供部屋、ゲストのための和室。そして何よりも大切だったのが、ご主人の言葉を借りればこれらを「豊かなバラック」として実現することであった。このバラックという言葉にはローコストということは勿論だが、自由でおおらかな生活を指向するということと同時に、文化や因習からも自由な建築の根源的な在り方を提示せよという問いかけが含まれると理解した。そこで私たちが考えたのは「高貴な野蛮人」よろしく理性に導かれた合理を発揮するというよりは、身近な在りモノでとりあえずの住処を作ってしまう知恵、究極のバラックである段ボールハウスの作り方だった。
「Winding W」はカクカクと折れ曲がった一枚の壁と、それを上から塞ぐ1枚の屋根で出来ている。折れ曲がった壁は全て構造壁でそれ以外の構造要素は無い。作り方の原理は段ボールハウスそのものである。壁両端部の箱状に包んだ場所を2層として、それぞれ個室や水回りを納めている。この2層部分以外は全て天井の高い、くびれながら続くワンルーム。緩やかに分節された作曲のためのワークスペース、ホール、キッチンは、それぞれ壁の内に囲まれた部屋のようでもあり、出隅を挟んだガルバリウム鋼板の壁面が作る箱(正確には箱のように見える形)の外のようにも見える。床仕上げはワークスペース、ホール、キッチンでそれぞれ異なり、部屋の違いを示しているが、箱の外のような感覚はその違いを打ち消し、全体をあたかも外部の広場のように感じさせる。空間の機能性を相対化するとも言えるこの効果が「豊かなバラック」に求められた自由でおおらかな生活を実現するのではないかと考えている。

(新建築「住宅特集」11年03月)

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