「東船橋の家」直截的な回答
1階に天井の高い開放的なLDK、2階に2つの個室と明るいバスルーム、小さな和室と家族のためのワークコーナー。それに充分な収納。最終的なクライアントの要望は至ってシンプルであった。設計はこのしごく当たり前と言っても良い要望に、出来る限り直截的に応えること、そして古い住宅地の一角に新しく宅地造成されたこの敷地が担うべき社会性を備えた形を見つけ出すことであった。
まず、2階のボリュームを敷地のほぼ中央に法規上許される7mの高さまで持ち上げ、その下に出来たスペースをLDKとする。そこではどの方向へも視線が延びて行くような状態を作り出すために1階の天井際と足下にスリット状の開口をグルリと廻し、上部からは周囲の松の木々と空を望み、下部からも視線が外へ逃げることによって空間の閉塞感を解消する。スリットに挟まれた帯状の壁面は周囲からの視線をカットし、内部に居心地の良さと適度な開放感をもたらしている。
また、このスリットがあることにより、道路からの視線が建物を通り抜ける。前面道路の坂道を上ると、上部スリットを通して建物の向こう側へ沈む夕日を見ることが出来る。ガラス面は視線の角度によって周囲の環境を映し出し、特に東側にある松の樹列が写り込むことで、松の木々に特徴づけられるこの一帯のコンテクストを拡大出来ればとも考えた。
構造形式も求められる性能に対して直截的に選びとられた。小部屋に分割された2階は木造、大きなワンルームである1階は鉄骨造とし、スリット部分の構造部材をフラットバーとすることでその存在感を極力弱め、ガルバリウム鋼板で包まれた2階のボリュームが宙に浮いているかのような印象を得ようとしている。
(「GA HOUSES 」89号)