「平井の家」 発見された空間

荒川河岸に造成された高規格堤防に建つ2世帯住宅。既存堤防沿いの土地を奥行き80mにわたって盛土し、宅地ごと分厚い堤防にするという大規模な造成工事によって生まれた敷地で、建主は造成前からの住人である。造成完了から間をあけず着工するスケジュールであったため、実際の敷地を見ることもできず、隣や向かいにどんな家が建つのかも全く不明で、デザインは自ずと確実に分かることだけにフォーカスして進めることとなった。
その中でも最も大きな特徴は荒川の眺望である。荒川の対岸に走る首都高速環状線の高架を挟んで中川が並走し、最短でも1km先まで見通すことが出来る。この眺望を楽しむバルコニーとリビングスペースを3階に設けることが条件となった。ただ、川に面して手前に隣地があるため、前面道路と川沿いの道がぶつかるT字路方向への視界を期待するしかない。
結果的にこの設計は眺望の確保という問題から出発して、建主がイメージする個々の空間の在り方、世帯間の関係といったプランニングの問題や、それを支える構造の問題、その他多岐にわたる問題系を同時に解決し、「計画」という概念からは生成し難い空間を「発見」することであったと思う。様々なトライアンドエラーを繰り返し、その過程で敷地が東側へ拡大すると言うアクシデント(?)もありながら、実施案が選び取られた。案を練り上げたというより選び取ったという感覚である。眺望を得るために3階の床をT字路方向へ斜めに振り、その結果三角形の吹抜けが大小3つ生まれた。中小の吹抜けはそれぞれ子世帯の寝室と浴室に使われる。ハイサイドライトを設けることにより周囲の状況に関わらず安定した採光通風が可能な2つの部屋は、意外性と創意が求められた子世帯の空間にうってつけであると感じた。フリースペースの大きな吹抜けは2階レベルで親世帯LDKの吹抜けと接し、3層を互い違いに繋ぐスペースができた。1階と3階は直接視線が交わらないが、フリースペースや階段、寝室や書斎の回転扉からは視線が複雑に交差し、様々な距離感を内包する場が生まれる。これも、打合せを重ねるにつれ見えて来た建主の望む両世帯の間合いにフィットするものであった。
山辺豊彦氏と検討を進めた構造は鉄骨外殻架構を採用している。床面が3角形グリッドで構成されるため、大きな吹抜けを抱えながらも床剛性の確保が可能で、平面同様立面的にも斜材を有効に活用した結果、内部空間の多様性を確保しつつ部材断面を極力抑えた架構が可能となった。

(2005年「新建築住宅特集」3月号)

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