「HOUSE WITH FOUR VOIDS」空間の形式とそこに立ち現れる場の関係

東京都練馬区の閑静な住宅街に建つ2世帯住宅である。親世帯のご主人が幼少の頃から65年以上住まう土地に、3代目の家として建てられた。大きく育った庭木の緑が豊かな上に、北側は公園に接し2階からは遠く幹線道路沿いの欅並木を望む。都内としては実に良好な周辺環境である。
この豊かな周辺環境を積極的に取り込み、両世帯の距離感や間合いといったものを-現代アート専門のキュレーターである建主の言葉を借りれば「harmony」と「stillness」をもって-空間化することが求められた。
黒色ガルバリウム鋼板で包まれた4つの箱を、敷地のほぼ中央に位置するLDKを中心に風車状に配置し、箱と箱の隙間の先に4つの吹抜けを設けた。1階の親世帯、2階の子世帯は、ほぼ同一平面で変形した方形屋根が全体を覆う。上下階合わせて8つの箱は、寝室や水回りなどの機能空間、4つの吹抜けは両世帯の玄関、親世帯の妻の書斎、共用のサンルームである。この4つの吹抜けは親世帯と子世帯を直接、間接に結びつけ、両世帯の分離と統合の度合いを調整する。また、緑豊かな周辺環境を家の中央へ引込むのもこの吹抜けの役割である。変形した方形屋根は2世帯ではあっても「一つの家族」であることをシンボリックに示すとともに、2階のスペースに場所の性格や使い方に応じた変化と抑揚を与えている。
全体のプランそのものは形式性の強い形をとっているが、内部で身を動かすと、周囲の緑や光、上階や下階からの声や人影が様々に変化しながら全方位的に身体を包み込む、実に複雑な様相を孕んだ場がそこに在る。
この住宅について考えてことを一言で言うなら、「空間の形式とそこに立ち現れる場の関係を計測すること」であったと思う。所与に見合う形式を見つけ出し、それを具体化するための形を導く。設計とはこの形式性と具体性の狭間を行っては帰る、限りない反復運動の集積と言い換えることも出来よう。そしてこの運動の中で、見い出された形の全てが、「空間の形式とそこに立ち現れる場の関係」を測る計測器となるのである。

「新建築 住宅特集」 2007年3月号

→「HOUSE WITH FOUR VOIDS」作品情報