「SLIDE西荻」地形としてのスケルトン/リノベーションとしてのインフィル
「SLIDE西荻」のように、スケルトン計画を決めた後に入居者を募るコーポラティブハウスでは、おのずとインフィル計画はスケルトン計画に対して事後的に行われることになる。よって実施設計や施工は同時進行ではあるものの、インフィル計画はいわゆる「新築工事」と言うより本質的には「改修工事」、すなわちリノベーションと呼ぶべきものに近い。
リノベーションが既存環境との対話を通して行われるものと考えると、インフィルを強引に導くようなものでもインフィルの自由度を高めるだけのものでもない、リノベーションとしてのインフィル計画に対して、常に発見的な読解を可能にするようなスケルトンの枠組みを考えること。それが私たちの目標となった。
具体的には連続する大きな滑り台のようなスラブ面が、細長い中庭を渦巻き状に取り囲むようなスケルトンの形を考えた。端竿敷地の長屋に一般的な、構造壁に挟まれた空間を基本単位とする住戸構成と異なり、フラットな床面とスロープが交互に連続する丘のような形は、上下階の接続を多様にし、身体感覚に直接作用する場を生み出している。中庭はそこを巡って全住戸の人の動きと視線が交錯する複雑な場となる。インフィル計画は、この中庭を巡る丘のような地形に導かれ、それに人為を加えながら、すなわち地形をリノベートしながら街をつくってゆく都市計画的な作業のようにも思えた。
全9戸のうち4戸は丘に囲まれた谷間のような中庭を共有し、他の5戸はそれぞれに丘の頂きのようなルーフバルコニーを専有する。中庭の緑のスクリーンが丘の頂きまで成長し、その頂きでは屋上緑化の緑が根付き生活のシーンが溢れる。その小さな緑の頂きの集まりは、周囲の一戸建て住宅と親和性のある形とスケールも相まってやがて周囲の緑と溶け合い、まさに都市に埋め込まれた〈丘〉のようになるだろう。
リノベーションの対象となる空間とはどう在るべきか?この計画における私たちの最も根本的な問題意識はそこに在った。そしてそれはまた、コーポラティブハウス固有の問題を越えて、建築を考える上での根源的な問いかけにもなっているのではないかと考えている。
「新建築」09年2月号