「Y-3」 オープンな場を目指して/樹木のような建築
「Y-3」はビルディングタイプで言えば賃貸集合住宅に属するが、集合住宅にまつわる空間的な枠組みや制度といったものを出来るだけ取り払って、都市の新しいプライバシーの在り方にフィットした、オープンで自由な場を提供することを目指している。
格子状の壁を交差部分で刳り貫く空間の造り方は「綾瀬の集合住宅」(「新建築」09年2月号)でも試みた手法である。十字に交差する壁によってスペースは4つに緩やかに分割され、それは1つの部屋の様でもあり、4つの部屋の様でもある。壁が刳り貫かれた部分を4つの部屋が重なり合う中心と見ることも出来る。残された壁によって視線は遮られ、実面積以上の奥行きや距離感が生まれる。
「Y-3」が「綾瀬」と大きく異なるのは、外周がオープンであること。求めたのはガラスによるクリアーな透明感というよりは、既成品のアルミサッシュがスラブ間にラフに取付けられることによるある種の軽さ、そしてそこから生じる開放感である。壁とスラブの構造体だけが街に投げ出されたような、無造作で自由な場所。喩えて言えば、様々な鳥たちが集まる「樹木」のような場所。都市という大きな「森」の中に複数の居場所があって、個人の公と私がシームレスに繋がっている状態の1断面、ストリートとハウスの中間のような場所。そんな場所に冒頭で言った都市の新しいプライバシーが生まれるのではないかと思っている。
言うまでもないが「Y-3」の様な賃貸集合住宅が街に対してオープンであるためには、ハードとソフト両面からのアプローチが必要であり、オーナーの佐藤ご夫妻とディスカッションを積み重ねた結果、初めてこのような建ち方が可能となった。「Y-3」の階段室はバス停でバス待ちする人々に一息ついてもらうスペースとして開放している。エントランスにはゲートを設けていない。そんな小さなことでも建物の街に向ける顔は大きく変わる。現在ほぼテナントが入居した状況を見ても、「Y-3」が指し示す方向性の面白さと可能性を強く感じる。今まで在りそうで無かった、そんな場所が出来たのではないかと思っている。
(2010年「新建築」2月号)