「FORME SETAGAYA」断片化した空間のジャンプ
世田谷通りから枝分かれした道は、くの字に曲がるとまた世田谷通りに合流してしまう。昭和30年代の地図を見ると、過去は本道だったのが、世田谷通りの直線化により三日月湖のような今の形になったことが分かる。この「FORME SETAGAYA」の前面道路のような不思議な道は、都市の近代化の過程で多くのこされた。そのため、東京の都市構造は断片的、重層的で、階層的な把握が難しいのだが、そこに東京の街を読み解き体験する面白さがある。世田谷区上用賀に建つ4戸の木造賃貸長屋である「FORME」は、期せずしてこの場所の出自から見える東京の魅力と呼応するような空間構成を持つに至った。
日影規制と高度斜線、構造適合判定を回避するため軒高9mを越えない、などの条件から導かれるほぼ最大のボリュームが、3階に大きなルーフバルコニーのある今の形である。駅から至近とは言えない一方で、砧公園からは程近く、子育て世代には魅力的な地域性を評価して、ファミリー向けの住戸を3戸と、オーナー住戸をこのボリュームの中に収めることになった。また、収支の面から木造を採用し、同じく収支と音の問題を考慮して、住戸の重なりが少ない長屋形式とした。その時点で、「地面に近い1階」とルーフバルコニーのある「空に近い3階」の姿が思い浮かぶのだが、2階がその中間にあって性格が定まり難い。そこで、1階と3階は階高を抑え(1階は一部掘込んだ)、余ったボリュームを全て2階に振り分けた。2階は天井の高いロフトのある立体的な空間になるだけでなく、意図的に引き延ばされた空間の両端が、ロフトで不意につながったり、思わぬ場所で吹抜けや階段室を介して上下階とつながったり、視線がスリット窓を通して外部へ抜けたりと、脈略のない断片的な空間体験が複雑に重なる場になっている。各住戸の主室は、01号室を1F+3F、02号室を2F、03号室を2F+3F、04号室を1F+2F、とそれぞれ特徴の異なる組み合わせとした。2階を階段でパスする01号室では、静かな1階から2.5層の階段室を昇ると、広いルーフバルコニーに面した明るく開放的な3階の部屋が現れる。断片化した空間のジャンプを繰り返す様な生活も楽しいのではないかと思っている。(駒田剛司)
「新建築」16年2月号