「FUNABORI」 予算600万円のリアリティー/フィクショナルな場を目指して

予算を伺った時、「なにが出来る?」一瞬そう思ってしまった。90㎡築8年、なんの変哲も無い住宅の改修費用として提示されたのは600万円。しかし、同規模の新築マンションと比べると、中古住宅を購入した上で改修に掛けられる予算はこの程度である。すなわち予算600万円は、中古住宅のリノベーションが一般住宅市場の中で、有効な選択肢に成り得るためにクリアしなければならない、リアルな数字なのだ。
タイトな予算の中で、既存のリソースを最大限利用すること、新規の要素を出来るだけ加えないこと。この2つが設計の絶対条件となった。既存の壁を一部抜き、天井を剥がし、キッチンの位置を移す。そして、既存の床と壁を白く塗り込む。新しい要素は、2階のキッチンカウンター、1階へ光を落とすガラスの床、子供部屋からダイニングへ繋がるハシゴ、そして収納扉の小さなツマミ。私たちは、モノの見え方を徹底的にずらし、結果として空間の在り方を根本から変えること目指した。天井を抜くと既存の壁がついたての様になる。隠れていた天井裏は新しい天蓋となり、ガラスの床を通して見る向こう側は、まるでガラスケースに入っているかのようだ。子供部屋とダイニングを繋ぐハシゴは日常的な空間の配列を崩す。床や壁を白く塗ると、大量生産品のフローリングやモールディング、壁紙のパターンなどが元々持っていた意味が消え、テクスチャーや輪郭だけが残る。新調したダイニングチェアーも「椅子らしい」形を白く塗り込んだものをあえて選んだ。壁を貫くように斜めに配置したキッチンカウンターは、空間に動きや躍動感を与えるとともに、その異物感が際立っている。

どこにでもある日常的なモノの見え方を徹底的にずらし、ある種フィクショナルな場を造り出す。これがリアルな経済原理に応えるために私たちが考えたリノベーションの手法である。そしてそれは、リノベーションという行為には、新しくモノを造ること以上に、ある意味幅の広い表現の可能性が含まれていることに気づくきっかけともなった。

(新建築「住宅特集」11年06月号)

→「FUNABORI」作品情報