「Folded W」 一筆書きの壁が造る囲い/「壁」がそこに在るという感覚

住宅や小さなアパートが所在なく建ち並ぶ新興住宅地の周縁部、「Folded W」は私鉄駅前から真っすぐに延びた新しい道の先に建つ。若い施主ご夫妻は、外部からの視線を気にする必要のない内に柔らかく閉じた空間と、将来家族が増えることに備えて増築が可能な計画を要望していた。まず私たちが考えたのは、「Winding W」で試みた1枚の壁を折曲げて場をつくる手法を応用することであった。増築にあたっては、一筆書きの壁を延ばせば良い。そもそもこの手法には、建築の在り方を完結したものでなく、オープンエンドの状態にしておきたいという思いがあった。

深く折曲げた壁がつくる襞のような空間の一つ一つは、充分に囲われているが決して閉じることはなく、スリット状の隙間を通して必ず外部とつながる。玄関、キッチン、ダイニング、リビングなどそれぞれ機能をあたえられた囲いは、相互の関係性に応じて壁を刳り貫くことで、全体として連続感のある複雑で奥行きの深い場を造り出し、天井高の変化とスリットから差す光がさらなる抑揚をもたらす。壁による分節と接続、そして空間が一つの像を結ばない多様で多義的な読み取りを可能にする場の造り方は、やはり壁の在り方について考えていた「M HOUSE」で試みた格子状の壁の交差部を刳り貫く手法の応用でもある。しかし、ここでは空間の形式性ではなく「壁」がただそこに在るという感覚が前面に出て欲しいと思った。モノとしての壁に寄り添いながら、人がそこに棲む。住み手の要望に先立って壁がそこに在ったような感覚。そんな感覚を大切にしたいと思った。 

この感覚は建物の佇まいにも現れる。敷地は新興住宅街のいわば入口にあたる。敷地のはす向かいには小さな公園があり、緑のオープンスペースの中央にこんもりとしたマウンドがある。私たちはそこから見る建てものの姿を大切にしたいと思っていた。マウンドが古墳であることは後に知ったのだが、どこかジグラットの様な「Folded W」の佇まいと、このマウンドが対となって、人々の記憶に残る風景になればと願っている。

(2012年新建築「住宅特集」6月号)

→「Folded W」作品情報