「HOUSE WITH FOUR VOIDS」再訪 変わっているのに変わっていないということ
練馬区に建つ2世帯住宅、「HOUSE WITH FOUR VOIDS」を久しぶりに訪問した。ご家族全員に集まって頂きお話を伺おうとした矢先、親世帯のお父さんから、「なにしろ家族のコミュニケーションが非常によろしい家で、特に変わったことは何もない」とのお言葉。「変わったことは何ですか?」というこちらの質問を一蹴するような発言に、「あ〜、これで取材は終わりにしても良いかも」と思う。
お父さんは「変わっていない」と仰るが、建物が出来て7年、実は色んなことが変わっているはずだ。小学生だった2人の孫は、中学2年生と高校3年生になっている。かわいい小学生男子だったお兄ちゃんが、ゴリゴリの体育会系男子になっているのだから、その変わりっぷりの振幅たるや、我々からすれば衝撃的だったりするのだ。聞けば、お父さんご自身も、外勤を辞めてもっぱらこの家でお仕事をされているとのこと。そしてなにより、この家が出来たことを誰よりも喜んでくれたご家族の一人を、永遠に失うという大きく深い悲しみもあった。
そうした家族の変化がもたらした、様々なことを聞きたいと目論んでいた私たちとしては、取材が行き詰まるのではないかと若干焦りつつも、「やっぱりそうだよね」と妙に腑に落ちる気がした。外から見れば、変わっているように見えても、一人一人の主体性はそうは変わらない。そして、お父さんがいみじくも仰った通り、「家族のコミュニケーションがよろしい」限りは、それぞれの主体の集合体たる家族もそう簡単には変わらないのだ。
変わっているのに変わっていない。この一見矛盾した感覚が、ごく自然に語られること自体に、今回の訪問の大きな収穫があったように思う。と同時に、7年という月日を経た日常の形が、どのように定着し、ゆっくりとその形を変えてつつあるのかを、家族の振る舞いと空間の関係を通して検証し続けることが必要なのではないか、とも感じた。当然と言えば当然だが、観察者である私たちは、じっくりと腰を据えてご家族と向き合わなくてはならない。もちろん、必要な時にはいつでも観察者としてではなく、空間を考える当事者となって、この家の成長に関わり続けたいと強く思った。
「新建築 住宅特集」13年12月号