「アリウェイ戸越」街にとけ込む、襞上の壁と空間
計画地は品川区戸越。戸越銀座商店街から、北へ少し坂を上った台地の縁にあたる。木造住宅やアパートなどが、軒を連ねるこの前面道路も、戦前までは賑やかな商店街だったと聞く。この通りから細い路地を住宅地へ入ると、庭や玄関先には思い思いの植栽が溢れ、小さな家々は、ひしめき合った末にとりあえず今の形に落着いたかのように、一見してバラバラで、それでも互いに密着しあいながら建ち並んでいる。よく見ると、窓上の庇やスチール製の窓台、塗り重ねられた左官仕上げの外壁など、比較的築年数を経た建物には、小さな共通点も見つけることが出来る。脈絡無く育った植栽も、全体で見ればこの街に欠かすことの出来ない大切な要素だ。細い路地と、家と家の隙間、小さな庭や玄関先。輪郭の曖昧なひだのような空隙に生活の場が溢れている。
私たちが考えたのは、ここで見た都市的文脈を、新しく建てる建物にも読込みたいということだった。地元で60年建設業を営む建主も、私たちの提案に大いに賛同して頂いた。まず、通りから奥へ延びるような敷地形状に沿って、アプローチとなる路地を引き込む。外壁を折曲げ、建物のスケールをブレークダウンする。外観のスケールや外壁の仕上、庇や窓台、一見脈絡のない植栽、といった要素は、言うまでもなく周囲からの引用である。ちなみに、外壁の色は周囲の建物からサンプリングし、植栽は建主の生業にちなんで、すべて有用材となる樹種を選んだ。
折曲げられた壁は、外部を内部へ引き込み、内外が入り交じったような、ひだ状で複雑な内部空間を造り出す。様々な生活の場が大きさや形の異なるひだに納まり、時には溢れ出し、緩やかに繋がって行く。路地に分け入って行く時に感じた街の魅力を、この新しい建物にも形を換えて内包出来たのではないかと考えている。