「pallets」voidを引継ぐ

敷地周辺は比較的小さな住宅やアパートが、僅かな隣棟間隔で建ち並んでいる。まとまった緑を目にすることは少なく、道路が細く複雑に折れ曲がっていることも相まって、街には視線が抜けるような場所がなかなか見当たらない。そんな街並の中にあって、先代から所有する地所の一部を引継いだ敷地は、前面道路を挟んだ実家の日本庭園に面している。まとまった緑と視線の抜けを得られるのは、この近辺ではなかなか得難い立地条件である。
この実家の緑を借景としてどう活かすかが、「pallets」の設計にあたって検討すべき重要な課題であったことは言うまでもない。と同時に、大切だと感じたのは、この良好な立地条件をただ享受するだけでなく、若い家族のための新しい家が、先代からの緑と、それが造り出す街のvoidをなんとか引継いでいけないか、ということであった。
しかし、残念ながら敷地に余裕はなく、まとまった庭を用意することは出来ない。そこで、私たちが考えたのは、建築をmassではなくvoidとして造ることである。具体的には3枚の壁を建て、それにスラブを架け渡してトンネル状のvoidを造った。
スラブのレベルを操作することで、幾つかの性格の異なる場所を造り出し、道路側と敷地奥には、細長いスラブを架け、そこを小さな空中庭園としている。この空中庭園によって、室内に居てすぐ手の届くところに緑がある楽しさや、道路からの視線を適度に遮る効果、そして、実家の緑を、慎ましやかではあるが、引継ぐことも出来た。結果的に道路側は全面ガラス張りの開口になり、開放度の高い家となったが、前面道路を含むこの場所は、建主が幼少から慣れ親しんだ言わばニワである。そのニワへ向かって家を開くことは、ごく自然の成り行きでもあった。竣工後何度かお邪魔したが、いつもブラインドは開け放たれている。
LDKから道路側を見ると、空中庭園の緑と実家の緑が重なりあい、目を敷地奥に転ずると、ぼんやりと光る乳白色のポリカーボネートの壁を背景にして、そこにも小さな緑が配されている。実家の庭から続いた緑とvoidが建物を抜け、柔らかくどこまでもフェイドアウトしていくような、そんな感覚を出せたのではと思っている。

「新建築 住宅特集」14年12月号

→「pallets」作品紹介