「FRILL」襞がつくる大小さまざまな居場所
「FRILL」は、世田谷の閑静な住宅街、環七沿いの台地の上に、ちょうど下北沢の街を見下ろすように建っている。
カーブした1枚の壁が、フリルのような襞の中に、大小さまざまな居場所を造る。一筆書きの壁による、分節と接続。空間が一つの像を結ばない。多様な読み取りを可能にする場の造り方は、「Folded W」でも試みた手法であるが、ここでは角をラウンドさせることで、壁に包まれたような、柔らかな印象をつくり出している。全体として、連続感のある、複雑で奥行きの深い場を造り出し、1階の天井高、2階の床レベルと仕上の変化が、更なる抑揚を加えている。
計画がスタートした時点で、お住まいの予定は、80代の母、50代の娘、高校生の孫の3人。母が一人住まいをしていた古家を、3世代同居するために、建替えるのが目的であった。油絵が趣味の母は、天井が高く、内外とも白い壁で、床はコンクリートの造りを、希望されていた。視界が開ける東側には、大きな窓と、そこから人を招き入れること。「いずれ、1階で絵画教室を開いたら良いのではないか。」「日本家屋に長く住んでいたから、モダンな家に住みたい。」そんなことも仰っていた。かくしゃくとしていて、とても娘の世話になるという感じではない。
私たちが考えたのは、いわゆる2世帯住宅ではなく、3人の自律した大人の為の住宅である。そして、家族だけでなく、時には外部の人々へ開放する場も用意したい。1,2階とも、個室の以外の部分を、壁で二つに分割し、コーナーに穿たれたアーチ状の開口で、緩やかに繋いだ。それによって、個室の外にも、3人が時々に応じた、それぞれの居場所をみつけることが出来る。デッキから生徒を招き入れれば、アトリエは絵画教室だ。個室から絵画教室に至る場の変化を、フリルの様な壁が緩やかに分節し、柔らかく包みこむ。
お母様は「FRILL」の工事中、体調を崩され、この家に住むことが、叶わなくなってしまった。お母様が愛用していたイーゼルを見るたびに、ここで好きなだけ絵を描いて欲しかったと思う。残念でならない。ただ、娘さんからは、アトリエをギャラリーとしても使いたい、というお話を頂いている。私たちも、是非そうなって欲しいと、切に願っている。
「新建築 住宅特集」2013年07月号