121219 SZ邸引渡

SZ邸引渡しました。

SZ邸は私の地元葛西で従姉妹家族のために設計した住宅です。
戦前まで農業や漁業、特に海苔養殖を生業とする小さな町だった葛西は、運河による交通が大変盛んでした。私の母はそこで長く続く家の出身で、実家は明治期に建てられた茅葺き屋根がとても立派な日本家屋でした。盆暮れに親戚一同が会した実家の前を、小さな船が行き交っていたことをおぼろげに覚えています。水路は私が小さかった頃に暗渠になり、ずっと残って来た家も20年程前に取り壊されてしまいました。解体にあたって既にこの仕事に就いていた私が何も出来なかったことは、今でも大きな悔いとして残っています。都の文化財に指定されていた建築的な価値もさることながら、一族や地域の記憶が深く刻み込まれた風景の大切さにもっと意識的であるべきでした。親戚一人が何を言ったところで何も変わらなかったでしょうし、その後権利関係が第三者に渡ってしまったことを思えば、結果はどう転んでも今と同じだったと思います。それでも、マンションになってしまったその場所の側を通る度に今も寂しい気持ちと後悔の念がわき上がってきます。

SZ邸はその葛西に、しかも今は親水公園となった水路の脇に建っています。
設計の依頼を受けて真っ先に考えたのは、取り壊された実家のことでした。その記憶を少しでも新しい家に投影出来ないだろうか。。家族や親戚を暖かく迎えてくれた大きな屋根の下の大きな空間、そして町の人々に永く記憶されていたあの姿。。。ほんの僅かでも、今に蘇ってくれないだろうかという思いを込めました。〈TAK〉

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