「kap」 壁/スラブ/廃墟
2011年08月29日|TEXT|http://komada-archi.info/archives/493
江戸川区平井駅から程近い住宅地に建つ、全3戸の賃貸集合住宅である。
デザインの対象は壁とスラブにほぼ集中していた。当初は4戸で計画していたため、まず決めたのが建蔽率一杯の間口8.4m奥行き6mの平面を5枚の構造壁で細長く4分割すること。構造壁の隙間に断片化されたスラブを差し挟み、壁を一部抜いて隣り合うスパンを繋げたりしながら、決して広いとは言えないスペースを小さな居場所が立体的に積層する場に作り上げようとした。途中、ファイナンスの問題から4戸が3戸に変更され、全体を4分割することの合理性が失われると思われたが、構造壁はスパンの調整にとどめ、スラブの配置と壁の抜き方を再検討することで住戸数の変更に対応している。この一見場当たり的な設計プロセスをたどるに至った理由は、1つに構造壁が短スパンであることが、110mmというスラブの薄さを可能にしていたこと。そしてもう1つはそもそも全体を4分割する5枚の構造壁が計画に先立って存在していたという感覚を持ってデザインを進めていたことである。コンクリートの壁だけが残った廃墟をリノベーションするような感覚であろうか。スラブの薄さもこの感覚を保つための重要な要素であったと思う。
少し大袈裟に言えば、建築の根源的な部分を掘り起すような建物を造りたいと常に思っている。例えば建築に必要不可欠な壁やスラブの在り方を見直すことで、新しい発見がまだあるのではないか?「綾瀬の集合住宅」や「Y-3」では壁の、「SLIDE西荻」ではスラブの在り方について考えていた。「kap」でも壁とスラブの在り方について1つの提案が出来たのではないかと考えている。
(2011年「新建築」8月号)
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